取組内容について

「マルマツビューロー株式会社(以下、マルマツビューロー)」は、自動車や自転車のライト、道路の街灯など、ランプが法律で定められた基準を満たしているかどうかを測定する装置の開発・販売を行っている会社。また、装置の販売だけではなく、光の測定に必要な暗室設備の提案から、設置、運用にまで、配光測定のプロとしてトータルにサポートしています。かつては製造業特有の昔ながらの古い考えが根強く、男性が多かった職場。社内の雰囲気も張り詰めており、コミュニケーションも取りにくく、働きにくい環境でした。2021年に伊藤友規子さんが社長に就任したのを機に、改革を実施。伊藤社長自身が子ども2人を育てながら仕事を続けた経験に加え、自費で心理学、キャリアコンサルティングを学び、女性をはじめとする誰もが働きやすい職場環境づくりを実施。また、フレックス制度、評価制度、業務のペーパーレス化などを導入し、内部を刷新し、2022年には静岡市SDGs宣言事業所に登録されています。そんな「マルマツビューロー」の取り組みを詳しくご紹介していきます。

【ルール・環境の整備】心理的安全性を高め、個々のパフォーマンスを発揮できる環境に

「男性ばかりの職場でかつては軍隊のような雰囲気だった」と以前の職場をそんなふうに振り返ります。事務職として女性が3人ほど常に在籍はしていましたが、長く働き続ける方はいませんでした。シーンと静まり返った職場で、パソコンの音しかしないような環境。「こんな雰囲気では、斬新なアイデアも出ないし、パフォーマンスも発揮できない。人間関係を良くして、心理的安全性を高める必要がある」と伊藤社長は話します。どうしたら女性が継続して働いてくれるか。心理学やキャリアコンサルティングを学び、そして自身の子育ての経験を生かし、社内改革を実施しました。
現在、社員の平均年齢は約31歳と比較的若い社員が多い様子。生産性を考えると、ストレスなく、健康で気持ちよく仕事をできる環境が大切。個々のスキルをあげることで従業員エンゲージメントの向上にもつながります。

【ルール・環境の整備】心理的安全性を高め、個々のパフォーマンスを発揮できる環境に

  • ①フレックスタイム制度の導入……2023年にマルマツビューロー式フレックスタイム制度、通称「マルックス」の導入し、社員の7割が利用しています。朝が得意な人は7〜16時勤務、朝が苦手な人は10〜19時など、柔軟な出勤時間の設定が可能。1カ月ごとに変更が可能になっています。また、基本は残業がないように仕事を調整していますが、残業をした場合はその分、相談すれば、翌日等に早めに帰宅もできるようにしています。
  • ②テレワークの導入……2023年から導入した制度で、子育てや介護をしながらでも働き続けられる環境の整備として、テレワーク制度を導入しました。
  • ③休暇取得の仕方の見直し……長期休暇、看護休暇なども設定。連休と組み合わせて4日の休みをとるなど、従来の製造業では取りにくかった長期休暇の取得を推奨するようにしています。
  • ④会議は30分まで……会議の場は必ず30分に設定。事前の準備をしてもらい、効率よく話し合いが行われるようにしています。
  • ⑤ウォーターサーバーの設置……お茶や紅茶、コーヒー、ココア等も用意。夏の熱中症対策や水分不足対策、冬の冷え対策につなげています。
  • ⑥ぶら下がり健康器の設置……腰痛・肩こりを持つ社員が多かったことから食堂に設置。毎朝、男性は1分、女性は30秒ぶら下がることで、血行が良くなり、健康改善に。また、順番待ちの間に「昨日はゴルフに行って疲れ気味なんだよ」などと会話のきっかけが生まれ、コミュニケーションの場にもなっています。
  • ⑦健康に関する情報の掲示……雑誌のコピーなど、健康に関する記事を食堂に掲示し、社員の健康にも気を配っています。
  • ⑧最長70歳まで勤務可能……定年後もライフスタイルに合わせ、70歳まで勤務できるようにしました。
【キャリアアップ体制】評価制度サービスの導入や学びの機会を増やし、モチベーションアップへ

【キャリアアップ体制】評価制度サービスの導入や学びの機会を増やし、モチベーションアップへ

以前は見えるところの仕事はするけれども、見えないところの仕事は疎かにしがちでした。たとえば、周囲への配慮ができる人、思いやりがある人は評価されず、また明確な基準がなかったため人によって評価が異なったりもしていました。

  • ①評価制度のクラウドサービスを導入……クラウド型の評価制度サービス「あしたのチーム」を導入。これは自分で目標を設定するもので、達成できれば給与に還元するようにしました。上司との面談の時期になると自動通知。上司との面談の機会も増加し、自らのやるべき目標が明確化できるようになりました。
  • ②個々の強みを把握できる外部テストを利用……34に分類された資質の中で、自分は何が強みなのかを見つけてくれる外部サービス「ギャラップテスト」。たとえばポジティブ、コミュニケーション、アレンジなどの項目があり、得意不得意に合わせてチームを編成。苦手な部分を補えるようにしました。
  • ③目標設定の仕方に工夫をする……ゲームが好きな若い世代に合わせ、ゲームのクエストをクリアできるような感覚で課題解決をできるように目標を設定。頑張った分は給与に反映されるようにしました。
  • ④資格手当の支給……資格手当の定期的な見直しを実施。「こんな資格をとりたい」という希望にも柔軟に対応しています。また、資格を取得することで給与に反映したり、祝い金を出すようにしました。これにより、CADや電気工事の資格取得者が増えました。
  • ⑤学びの機会を増やす……職業訓練やセミナーを受講する場合は費用を全額負担。「静岡職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)」のものであれば何でも受講可能。たとえば住宅、デザインなど業務に関係がない内容の場合でも、積極的に受けてもらうようにしています。これは、別の分野を学ぶことで自分の仕事を俯瞰してみられる機会を増やすため。また、学びの楽しさを知ってもらうことにもつなげています。

【社内推進体制】属人化していた業務をマニュアルにし、対応できる人を増やす

マニュアルがなく、業務は属人化。その人しかできないという業務が多く、また後輩への技術の継承ができていませんでした。特にすでに70歳になっている先代社長にしかわからない技術が多く残っていました。

【社内推進体制】属人化していた業務をマニュアルにし、対応できる人を増やす

  • ①マニュアル作成サービスの導入……これまで属人化していた業務もクラウド型のマニュアル作成サービスを利用。マニュアル作成を推進していきました。情報をナレッジ管理することを強化し、休んでも業務の進行具合がわかるようにしました。
  • ②ペーパーレス化を推進……交通費や欠勤届けなど、従来、紙で行われていたことをペーパーレスに移行しました。
  • ③テレワークで仕事ができる環境づくり……製造現場ではテレワーク対応ができない印象がありますが、マニュアル作成を進めたことで、製造ができる社員が増加。事情があってテレワーク対応する場合は、情報の整理などオンラインでできる業務を代わりにやってもらうなど、業務の柔軟な割り振りができるようにしました。
  • ④社員総選挙でMVPを決める……社員の総選挙は、年1回実施している取り組み。自分が頑張ったことを自分で出し、その内容を社内で回覧。社員全員で投票し、MVPを決定。MVPになった人には奨励金が付与されるようになっています。社員全員がドキドキワクワクしながら結果を待つため、とても盛り上がるイベントになっています。
  • ⑤社内報の発行……2024年4月より、社内報を作成し、社員間のコミュニケーションの機会につなげています。
  • ⑥社員間でのありがとうの機会を増やす……「ありがとうBOX」を設置し、社員同士でしてもらって嬉しかったことなどを自由に投稿してもらっています。「ありがとう」の言葉は直接言葉にはしにくいですが、投稿してもらうことでお互いの思いやる心を育んでいます。内容は社内報に掲載することで周知しています。
  • ⑦社員イベントの実施……社員旅行、ボーリング大会、ヨガセミナー、忘年会、歓送迎会などを企画し、普段関わることが少ない部署との交流や社員のモチベーションアップ、リフレッシュする場を設けています。

【今後の課題・予定】「トモニン」の取得とBCP対策

「仕事と介護を両立できる職場環境」を目指し「トモニン」の取得と、地域住民との助け合い「BCP対策」がこれからの課題。まずは従業員の幸せを追求し、そこを充足してから周囲の幸せを考えていきたいとのことでした。

取組によって得られた声

営業事務

山本 理紗子さん

2023年度入社

ストレスがない毎日。ともかく働きやすい職場です

入社の面接時に「今、女性は少ないけれど、増えてきているところ。でも、ひとりにさせないから」と社長がおっしゃってくれたことに惹かれ、また、事務所の雰囲気もよかったことから入社を決めました。
8:30〜17:30が定時ですが、8:00〜17:00のフレックス制度を利用しています。朝の通勤ラッシュから外れるので電車も混んでいませんし、仕事帰りに混雑前のスーパーに寄れるので便利ですね。また、週末少し遊び過ぎて疲れてしまったときの月曜日や、夕方病院に寄りたいというようなときは早帰りが出来るよう、勤務時間を調整できるので、とても助かっています。
社内でコロナが出たときはすぐテレワークに切り替えたり、従業員のお子さんの学校で学級閉鎖があったときもテレワーク対応にしたりと、ストレスなく働いてもらえたらという社長の思いを強く感じます。自分はまだ子どもはいませんが、将来、子育てや介護に直面したとき、柔軟な働き方ができそうと思っています。
また、自分が社内報を作ったらいいのではと提案したときも、すぐにやろうと言ってもらえたり、失敗したときも頭ごなしに怒るのではなく、まずは肯定から入ってくれたりと、ともかく働きやすさをあげたら切りがありません。

Management SPRT

吉川 真理子さん

2021年度入社

目標設定がしやすく頑張った分だけ評価される仕組みが嬉しい

2024年2月にCADの資格を取得しました。クラウド型の評価制度「あしたのチーム」で、CADの資格取得を目標設定し、資格手当が出るのでがんばろうという気持ちになれました。目標を決めてそのゴールまでに1年かかったりすることもありますが、難易度を自分で考え、そして上長も一緒に考えてくれるので、仕事の負荷も踏まえながら微調整することができます。業務においてもひとりでたくさん抱え込まなくてよいようになっているので、自分ひとりが頑張らなきゃというようなストレスがないですね。社長も「最近、調子はどう?」など、こまめに声がけしてくれるのも嬉しいです。
9月に社員旅行があり、1泊2日で長野にいきました。費用は会社負担、普段話さない人と話すことができ、社内でのコミュニケーションにつながったと思います。
紙で行われていた届出等やこれまで口頭で行われていた業務の伝達も電子化され、さまざまなITサービスを活用することで情報共有がされやすくなっています。これを電子化してほしいという要望も、通りやすく、本当に風通しのよい職場だと思います。

取組企業からの声

代表取締役

伊藤 友規子さん

大切な従業員たちが気持ち良く働ける職場環境を目指したい

他社に勤めていましたが、経理担当がいないということから入社。父である先代から2021年に代表取締役社長を引き継ぎました。前職ではパワハラやマタハラを経験し、そして子どもふたりを母子家庭で育てていたこともあり、女性が社会で仕事をする上でのたいへんな部分は、身をもって経験してきました。子どもたちを守り、育て、すでに社会人になりました。これら全てが私の財産です。つらい思いをせずに仲間たちが働ける会社にしたい。そして、次の世代にたすきを渡すとき、整備された状態で渡してあげたいと思っています。さまざまな企業さんの取り組みをうかがい、これまで事務のみをやってもらっていた女性にも、いろいろなことを経験してもらおうと思って改革を推進しました。

取材メモ(編集後記)

従業員16名の企業で、これほどの大改革を実施できるのは簡単なことではないと思います。ただ、これらのことを実施できたのは、伊藤社長の一人ひとりの社員を思いやる広い懐があってのことだと感じました。「現在、若い女性社員が多いため、まだ子育て中の女性はいませんが、もし子どもができて何かあったときは社長室で面倒を見るから連れてきてOKにしているんですよ」と話す姿が印象的でした。
そして、従業員からも「資格をとったら社長がすごく褒めてくれる。本当に褒めるのが上手なんですよ」「これをやったら社長が褒めてくれるだろうなと思いながら、仕事や課題を頑張る人も多いんですよ」との声が。伊藤社長が従業員を大事にするように、従業員も社長を慕っていることが伝わってきました。

(文責:河田良子)

マルマツビューロー株式会社

所在地
静岡市清水区御門台5-2
電話番号
054-348-7500
業種
製造業
従業員数
16名 

男性9名、女性6名
(正社員/男性12名、女性3名、パート/男性0名、女性1名、管理職/男性3名、女性0名)
※2024年10月9日時点

※人数は取材時のものです

設立年月日
1988年4月30日
ウェブサイト
https://www.matnet.co.jp
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