取組内容について

1982年創業の建築設計事務所「株式会社大瀧建築事務所(以下、大瀧建築事務所)」は、企業の社屋や工場から、商業施設、教育・文化・公共施設、医療・福祉・厚生施設、そして、アパート・マンション・戸建住宅まで、企画・コンサルから設計・施工まで一貫した業務を行う会社です。
創業当初、建設業界はまだまだ男性社会で女性の活躍が珍しい時代でしたが、創業30年目に女性社員が産休・育休を取得することに。そこから産休・育休制度や、短時間勤務制度など女性が働きやすい環境を整備することに力を入れてきました。12年間のうちに女性社員3名が、計7回産休育休を取得し、復職しています。
また、Eラーニングを整備し、就業時間中に学べる場を提供。マニュアルを作成したり、事務職員を増員したりすることで業務を分担できるようにし、残業時間の削減や欠勤にも対応できるようにしました。ほかにも経験豊富なシニアを新規採用し、若手社員への指導、技術・知識の継承へとつなげています。そんな「大瀧建築事務所」の取り組みを詳しくご紹介していきます。

【ルール・環境の整備】働く女性の環境整備に注力。個々の家庭の事情に合わせた柔軟な働き方の仕組み

2012年に「大瀧建築事務所」で、初めて産休を取得する方が登場。当時、従業員数は非常に少なく、全体で8名、そのうち女性社員は3名でした。その方は設計士として働いていましたが、当時の従業員は年配者も多く、自分たちが子育てをしていた頃と子育て事情が異なっているため何をサポートすべきかがわからない状態でした。少人数の組織なため、ひとりの欠員は業務全体に大きな影響を及ぼす状況。設計の仕事は長期スパンを要するため、産休に入る前に業務の引き継ぎがひとつの課題となりました。そこで情報の一元管理を行うことで、属人化していた業務の引き継ぎがしやすいように変更を行いました。
また、社員の健康を考えた取り組みも行なっています。

【ルール・環境の整備】働く女性の環境整備に注力。個々の家庭の事情に合わせた柔軟な働き方の仕組み

  • ①サーバー導入で情報の一元管理化……当時は進捗具合やデータ管理は個々のパソコンに保存していたため、サーバーを導入することで業務の効率化を実施。現在では、工程会議を行い、業務の進捗がサーバーで共有しやすい体制になっています。また、顧客情報や営業管理をクラウド管理に移行。導入したクラウドサービスにチャット機能がついていたことから、合わせてチャットの導入も行い、コミュニケーションの円滑化にもつなげていきました。
  • ②女性が働きやすい仕組みの整備……全国的にも女性建築士はまだまだ少ない時代。そんな中、「大瀧建築事務所」では3名の女性建築士が活躍しています。事務職では子育て中の女性を積極的に雇用し、個々の家庭の事情にあわせた勤務時間としています。例えば、「出勤時間を以前より遅らせたいが勤務時間は減らしたくない」という方には、昼休みを短くしてもらい、9:45出社、16:30退社、昼休憩45分で勤務時間6時間という働き方を提案。ご主人の起業準備で2週間休みが欲しいという方には、サーバーで情報を一元管理していたため、引き継ぎがスムーズ。休み中も業務が滞ることはありませんでした。
  • ③駐車場の完備……子どもの送迎、家族の介護がある従業員に自家用車通勤が可能になるよう、駐車場を用意しました。
  • ④有給休暇取得奨励日の設定……特に年配層が有給を取らない傾向にあったため、連休になるようなところを中心に、5日の奨励日を設定しました。
  • ⑤「健康経営」の認証取得……2021年から準備を始め、2023年、2024年と連続で「健康経営」の認証を取得。2020年から健康診断の実施、健康情報の回覧など、できることからスタートしました。建設業界は喫煙率が高いと言われていますが、社内を禁煙とし、屋外に喫煙所を設置。屋外は屋根がなく雨の日は喫煙しづらい環境だったことから、次第に自主的に禁煙を試みるようになり、現在では喫煙者がいなくなりました。
【キャリアアップ体制】資格取得のための特別有給休暇の設定。入社時にはEラーニングで高スキルを習得

【キャリアアップ体制】資格取得のための特別有給休暇の設定。入社時にはEラーニングで高スキルを習得

年次有給休暇とは別に、一級建築士受験の際には独自の特別有給休暇制度を導入。
また、設計の3DCAD「BIM(ビム)」という次世代の設計手法を用いた建築設計を得意としている「大瀧建築事務所」。BIMを活用することでプレゼンの制作時間を短縮し、その分デザインに時間をさけるようになります。そして、3Dで設計することにより、建物の施工前からより具体的な完成イメージをつかめるので、色や細部の検討を十分に行うことができ、デザイン力の向上に繋がっています。大学や専門学校では、まだBIMを学習していないことも多く、入社時にはまずBIMの操作方法の取得からスタートしています。

  • ①特別有給休暇制度の導入……2021年頃から導入した制度。5日の特別有給休暇を設け、試験前の試験勉強の時間に充ててもらっています。また、一級建築士の取得には、仕事の後に学校に通う必要もあるので、基本定時に帰ってもらうようにしています。
  • ②Eラーニングの整備……新入社員はBIMをまず習得してもらう必要があるため、入社してしばらくの間は、業務時間内にEラーニングを利用してBIMの習得をしてもらうことからスタートしています。BIMに惹かれて入社する従業員も多いとのことで、企業のひとつの売りにもなっている大切なスキルです。
  • ③建築CPDの案内、就業時間中の受講許可……建築CPDの対象になる講習会や業務に役立ちそうな講演や講習を、随時回覧(紙・電子両方整備)して案内しています。就業時間内でもそれらの聴講を認め、受講しやすい環境づくりを行なっています。建築CPDは、仕事の受注にも大きく左右します。会社側から受けて欲しいものは費用を負担しています。

【社内推進体制】業務プロセスの見直しを実施。業務の棚卸し、事務員増員等で効率化アップ

2021年に、入札でも加点になる品質マネジメントの国際規格「ISO9001」の認証取得を実現しました。この際に、業務プロセスの見直しを実施。設計職で行っていた事務作業のうち、事務職に棚卸しできるものは棚卸しし、設計職の負担を軽減しました。これにより、設計職の残業時間の軽減へとつなげていきました。

【社内推進体制】業務プロセスの見直しを実施。業務の棚卸し、事務員増員等で効率化アップ

  • ①ISO9001認証の取得……一貫した製品・サービスの提供と顧客満足を目的とする「ISO9001」を取得することで、業務改善にも繋がると思い、取得を決意。コンサルティングに入ってもらい、チャレンジしました。社内でも「ISO9001に必要だからと伝える」と従業員も積極的に協力してくれました。業務改善ができたことにより、生産性が向上し、残業時間の短縮にもつながる結果となりました。
  • ②業務の棚卸しと事務職員の増員……設計士は設計の仕事のみに集中できるよう、事務業務を棚卸し。また、1人しかいなかった事務職員を増員することで、子育て中の事務職の従業員も休みを取りやすくしました。
  • ③業務マニュアルの整備……請求書やデータベース作成など、マニュアルを作成。こちらは見やすいように紙ベースで作成しています。これまでは新人が入るたびの社長自ら一人ひとりに指導を行っていましたが、マニュアルが登場したことにより、誰でも引き継ぎができるようになりました。
【多様な人材の活躍推進体制】正社員としてのシニアの積極採用。豊富な知識や経験を若手に伝えてもらう

【多様な人材の活躍推進体制】正社員としてのシニアの積極採用。豊富な知識や経験を若手に伝えてもらう

2024年に70歳のシニアの方を正社員として新規雇用しました。50年、設計事務所で働いていた実績のある方ですが、若い人たちのパソコンスキルについていけず、リタイヤを考えていた方です。豊富な経験や知識、そして現場監理の経験を若手に伝えてもらいたいと採用しています。

  • ①シニアの採用……シニアは、知識・経験が豊富な貴重な人材。若手社員に現場監理のポイントや注意点の指導をしてもらい、ひとりで現場監理ができるまで教育してもらっています。また、若手社員はBIMは得意ですが、設計における詳細図の検討など設計に関わる深い知識や技術を必要とする業務においては、経験や実力が不足がち。そこに、新しい技術には疎いけれど経験や知識が豊富なシニアが苦手な部分を補い、交流し、技術・知識を伝え合うことで、技術・経験の承継を行っています。

【今後の課題・予定】有給の時間単位取得

有給は現在、半日単位での取得となっている「大瀧建築事務所」。「病院に行きたい」「子どもの参観会のために2時間だけ抜けたい」「子どもの習い事の送迎のため中抜けしたい」などの要望も多く、時間単位での有給取得の希望が多くなっています。システムの仕組みの関係で、実現ができていない案件ですが、早期実現を準備中とのことでした。

取組によって得られた声

事務職

松井 智代さん

2021年入社

自分の持つパソコン関係のスキルを活用できる仕事がしたいと考えていましたが、子どもの保育園送迎や通院等により労働時間に制限があり、定期的にお休みが必要になる点がネックとなっていました。「大瀧建築事務所」は自宅から距離が離れてはいるものの、自家用車通勤が可能。業務内容も含めて魅力的な職場だと感じ、入社を決意しました。自分の力量に合わせて仕事を任せてもらえる環境なのでやりがいを感じています。
マニュアルの用意や後日社内システムやサーバーを確認することで業務の状況が把握できるようになっており、子どもの病気による急なお休みに対応できる体制になっているので助かっています。マニュアルは新しく入った方に業務の説明をする時に利用することが多いですが、私自身も年に数回しかやらないような業務の再確認に利用しています。
子どもが増えたことによって生活リズムが変わり、出勤時間を遅くしたいという相談をした際には、休憩時間を減らすことで全体の勤務時間は変わらないように調整してもらえました。個々の状況に合わせて柔軟にご対応いただけることも大きな魅力だと思います。

取組企業からの声

取締役

梶原 李紗さん

年齢・性別・役職関係なく全ての人材が活躍できる会社に

創業以来、初めて女性社員が産休育休をとることになった12年前から女性の働く環境整備に力を入れてきました。全国的にも女性の建築士はまだ珍しいですが、弊社では3名の女性建築士、そして、3名の事務社員が活躍しています。静岡には、子育てやご主人の転勤等を機に、優秀であるにもかかわらず、正社員の道を諦めている女性がとても多いと思います。また、経験豊富なシニアはこれからももっと積極採用を考えています。新人からシニアまで、年齢・性別・役職関係なく全ての人材が活躍できる会社を目指して、社内環境を整備していければと思っています。

取材メモ(編集後記)

業務の棚卸し、クラウドサービスの導入、マニュアルの整備等により、かつては深夜まで電気がついていたとのことですが、現在は19時頃には電気が消えるようになったとのこと。月平均15時間程度の残業だそうです。業界としてはとても短い方ではないでしょうか。
整備されたマニュアルも見せていただきましたが、分厚いファイルではあるものの、見出しが貼られ、必要な項目が見つけやすいようになっていました。マニュアルの作成はとてもたいへんだとは思いますが、少しずつ整備していけば以降の引き継ぎが楽になるので、とても有効的な手段だと思われます。

(文責:河田良子)

株式会社大瀧建築事務所

所在地
静岡市駿河区馬渕4-1-7
電話番号
054-286-4577
業種
専門・技術サービス業
従業員数
15名 

男性9名、女性6名
(正社員/男性7名、女性2名、パート/女性2名、管理職/男性2名、女性2名)
※2024年9月30日時点

※人数は取材時のものです

設立年月日
1982年4月1日
ウェブサイト
https://www.otaki-arch.com/
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