取組内容について

創業74年を迎える「丸長鍍金株式会社(以下、丸長鍍金)」は、創業者が勤務先倒産に伴い、当時の部下だった人達の幸せを想い立ち上げたのが始まり。ニッケルクロムや亜鉛などの一般電気めっきをはじめ、金や銀等の貴金属めっき、合金めっき、硬質クロムめっき、無電解ニッケルめっきなどあらゆるめっきに取り組み、これらは自動車部品や機械部品、電子部品、医療部品等、さまざまな分野において活用されています。
製造業の中でめっき業という業種は3Kの1つと言われており、これを打破すべく、作業環境・健康を重視。スリランカ、中国、バングラデシュ、フィリピン、ミャンマー、ドイツ、インドネシア、ベトナムなど外国人の正規雇用やアルバイトを増やし、多様な人材を登用。働きやすい環境、雰囲気を整えました。また、業務の改善報告書を提出すると表彰される制度を設けることで多くの工程が見直され、作業の効率をアップ。これらのことにより、一人ひとりの作業負担を削減し、労働時間の削減に繋げました。
そんな「丸長鍍金」の取り組みを詳しくご紹介していきます。

【ルール・環境の整備】従業員の安全と健康を最優先に、働きやすい職場環境を構築

従業員の安全と健康を第一に考え、事故を防ぐための働きやすい職場づくりに取り組んでいます。従業員からの職場改善提案を積極的に採用し、安全装置の追加や空調設備の導入を進め、安全で快適な作業環境を提供しています。

【ルール・環境の整備】従業員の安全と健康を最優先に、働きやすい職場環境を構築

  • ①雇用形態の転換が可能……希望があればパートから正社員への転換が随時可能。子育てや家庭の事情に応じて柔軟に働き方を選択できる体制を整えています。子育てがひと段落した後に正社員に戻る例や、学生アルバイトから正社員になる例もあります。
  • ②育児・介護休業規定の整備……フルタイム勤務でも半日勤務や短時間勤務が選べ、復職後も同じ部署で働くことができます。
  • ③年間休日の増加……取引会社との営業日の関係で、従来は祝日は出勤日になっていますが、年間休日の増加を図り、祝日を利用した3連休を新たに設定。2024年、2022年、2019年にそれぞれ1日ずつ年間休日を増やしています。
  • ④相談窓口や社長面談の実施……従業員が気軽に相談できる場を設け、年1回の社長面談を実施しています。社長との直接対話を通じて、職場の改善を図っています。
  • ⑤満足度調査の実施……2023年の「幸せデザインサーベイ」では、全国平均を上回る56.7%の満足度を獲得。コミュニケーションやマネジメント、幸福度、カラダ、チームパフォーマンスの向上に取り組んでいます。特に工場内のあらゆる場所への空調設備の設置は、製造業ではまだまだ完備していないところも多く、他社からの転職者にも好評です。
  • ⑥時間外労働時間の削減……月平均10.5時間の時間外労働を実現し、残業時間の削減を進めています。
  • ⑦改善報告表彰制度……従業員の改善提案を評価する「改善報告表彰制度」を20年以上前から導入しています。従業員は年間3件以上の改善報告を提出し、1秒1円の換算で改善効果を評価。月3万円以上の削減効果が認められれば金賞が授与され、QUOカードなどが贈呈されます。この改善内容は食堂に掲示され、他部署へのアイデア共有にもつながっています。
  • ⑧従業員の力でつくる職場改善……効率向上委員会や品質会議、ISO委員会、6S安全衛生委員会、エコアクション21委員会など、さまざまな委員会を設置。働き方改革、環境によい取り組みなど、従業員が改善を提案できる場を用意しています。ここから出てきたアイデアとして、工場内の暑さ対策が。井水式ユニットクーラーやスポットクーラーの導入、スポーツドリンクの無料配布、塩タブレットの配布などを実施しています。また、外部コンサルの助言も活用。従業員全体の意識向上と職場の効率化を実現しています。
  • ⑪ボランティア活動のための特別休暇制度……社員が地域社会への貢献活動に参加できるよう、ボランティア活動のための特別休暇制度を導入。従業員が地域社会に関与する機会を提供しています。
  • ⑨健康診断補助金制度……がん検診、人間ドック、脳ドックなどの費用を半額補助する健診補助金制度を実施。社員の健康を重視し、早期発見・早期治療を促進しています。
  • ⑩保養所助成金制度と永年勤続表彰制度……保養所(エクシブなど)の利用額の半額を補助し、リフレッシュの機会を提供しています。また、10年ごとに永年勤続者を表彰し、保養所へ2名招待を実施。長期勤務の感謝を表し、職場への愛着とモチベーションを高めています。
【キャリアアップ体制】スペシャリストを養成し専門スキルの向上へ。新人教育制度も充実

【キャリアアップ体制】スペシャリストを養成し専門スキルの向上へ。新人教育制度も充実

従業員のキャリアアップを支援し、専門スキルの向上を積極的に推進しています。特に、めっきに関する資格取得や、自己啓発のためのセミナー参加を手厚くサポートし、技術者育成に力を入れています。

  • ①資格取得支援制度……めっきに関する国家資格取得に必要な試験費用を全額補助し、社員の技術力向上をサポートしています。特に、めっき技能士の資格は取得を奨励しており、2024年には女性従業員が初めてめっき技能士2級を取得しています。資格を取得すると給与面でも評価され、モチベーション向上に寄与しています。
  • ②自己啓発セミナーの費用補助……自己成長を促すため、セミナー参加費用の半額を補助しています。例えば、英会話やマナー教室があり、営業担当者が海外取引や商談でのスキルを高めるために活用しています。なお、会社から推奨するものに関しては全額補助しています。
  • ③社内スペシャリストの育成……社内では、特級や1級のめっき技能士をはじめとする多様な資格を持つ社員が在籍しています。技能者の指導により、資格取得を目指す社員を内部でサポートできる体制を整備し、技術と知識の継承を行っています。
  • ④毎月のコンサルタント指導……経営、技術開発、品質に関する専門コンサルタントを毎月招き、各分野での指導を受け、社内の技術力と品質向上を図っています。
  • ⑤新人教育制度の強化……入社1年目の新入社員に対して、年齢の近い先輩社員が1対1でフォローする「ブラザー&シスター制度」を導入。コミュニケーション向上のための飲食代の負担などの制度も用意しています。新人がスムーズに職場に馴染み、職務スキルの向上を目指しています。また、半年後に新入社員の仕事風景を冊子化し、学校へ届けることで、次の世代の採用につなげています。

【社内推進体制】子育て中の女性の管理職、男性の育休など仕事を家庭の両立を促す支援

従業員が仕事と家庭を両立しやすい環境を推進するとともに、キャリア支援の充実を図っています。特に女性管理職の育成や、男性の育児休暇取得の促進を進めることで、柔軟な働き方の実現に注力。「自分にしかできない仕事」をなくし、業務を柔軟に引き継げる環境を整えることで、相互フォローが可能になり、仕事と家庭の両立ができるようにしています。また、部署の垣根を超えた交流の場を設けることで仕事の連携アップにつなげています。

【社内推進体制】子育て中の女性の管理職、男性の育休など仕事を家庭の両立を促す支援

  • ①女性管理職の育成と女性セミナー参加……女性管理職の育成に向けて、外部セミナーへの参加を奨励。これにより、女性特有の視点や柔軟なアプローチを社内に反映させ、新たな発想やモチベーションの向上につなげています。現在、女性管理職として部長1名、課長1名、係長4名が活躍しており、全体の管理職比率に占める割合は13%になりました。
  • ②えるぼし認定の取得と更新……2022年3月に「えるぼし」3つ星認定を取得し、以降毎年更新を継続中です。認定基準である、採用、継続就業、働き方、管理職比率、多様なキャリアコースの5項目を満たし、女性が安心してキャリアを築ける環境が整っています。
  • ③男性も育休を取得しやすい環境づくり……男性従業員の育児休暇取得を推進し、取得のしやすさ向上のために経営層や管理職の理解を深めています。2012年以降、2021年・2022年にはそれぞれ1〜3カ月の取得実績があり、2024年には係長職の男性も休暇を取得するなど、活用が増加しています。
    これは、5年周期の部署異動や、部署内の業務ローテーション、力量マップの作成を行うことで「自分にしかできない仕事」をなくした結果。業務を柔軟に引き継げる環境を実現し、社員が仕事と家庭を両立しやすい職場環境を整えています。
  • ④「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞 審査員会特別賞受賞……2023年に『日本でいちばん大切にしたい会社』に応募しましたが、残念ながら受賞できませんでした。人材を増やし、業務改善を行うことで、指摘された時間外労働の平均時間や福利厚生の改善。2024年に再チャレンジし、見事受賞に至りました。
  • ⑤従業員間のコミュニケーションを重視……社員旅行、飲み会、ゴルフコンペ、まるちょう祭、ボーリング大会など、遊びを通じて従業員同士の交流を深めています。さらに、ゴルフ、サイクリング、図書、マラソンといった部活動(オフカツ)も設立し、同じ趣味を共有する従業員同士の交流の場を用意。活動費の一部を支援しています。仕事時とは違った上司や同僚などの一面を見られたり、部署間を超えた交流が生まれることで仕事の連携アップにつなげています。また、コミュニケーションが職場の連携強化に繋がると考え、役職ではなく愛称で呼び合う文化も浸透しています。
多様な人材の活躍推進体制

多様な人材の活躍推進体制

障がい者の雇用を推進し、継続的に支援体制を整えています。また、外国人従業員や技能実習生、特定技能実習生を受け入れ、多様なバックグラウンドを持つ従業員が活躍。高齢者の再雇用を通じて、全ての従業員が働きやすい環境を提供しています。

  • ①障がい者の雇用促進と支援体制……1984年より障がい者の雇用を始め、2012年には静岡県障害者就労応援団として登録。障がい者雇用率6.12%(法定2.5%)を維持し、知的障がい、精神障がい、身体障がいの計10名を雇用しています。特別支援学校のインターンシップを随時受け入れるほか、点字名刺作成やたい焼きやクッキーなどの授産品の購入を通じて支援も行っています。障がい者の雇用は、周囲にも良い影響を与えています。たとえば、集中してコツコツと作業をこなす方や、言われなくてもゴミ出しをしっかり行う方など、その姿勢が職場全体に相乗効果をもたらしています。
  • ②外国人正社員の積極採用……2009年以降、スリランカ、中国、バングラデシュ、フィリピン、ミャンマー、ドイツ、ベトナムなど7か国から16名の外国人社員(男性10名、女性6名)を正社員として採用。係長職に3名が就いており、日本語能力N1からN3レベルの社員も多く、永住権を獲得したり、帰化した従業員も。早くから外国人がいる環境であったため、周囲も異文化への理解があり、柔軟な受け入れ体制が整っています。
  • ③技能実習生・特定技能実習生の受入……2008年からベトナムやバングラデシュ、中国から現在35名の技能実習生を、また、2024年からベトナム、インドネシアから特定技能実習生2名を受け入れています。
    従業員とはSNSを通じたコミュニケーションや、一緒にドライブに行ったりとプライベートでの交流も盛ん。社内に生活指導員がいることで日常生活の「困った」に対してのフォローも行っています。
  • ④シルバー人材の再雇用と高齢者雇用……延長雇用満65歳退職後のシニア4名を「社内外注」として再雇用し、フルタイム、半日、2時間だけなど業務の量に応じて調整。また、業務の効率化のために、シルバー人材を通じて新たに2名の女性を採用し、これまで従業員が行なっていた清掃業務や食堂の整頓等を任せています。

今後の課題・予定

従業員が介護と仕事を両立できるよう介護制度と介護休業規定を導入していますが、現時点での利用者はいないため、今後の利用増加を見越した改善の課題が必要になっています。

取組によって得られた声

第一製造部

池上 ホリピィティヤさん

2010年4月入社

「丸長鍍金」で働き続けたくて、アルバイトからそのまま正社員に

2003年にスリランカから来日。1年ほど経ってから、アルバイトとして丸長グループの「サンリツ工業」で働き始めました。最初は日本語がほとんどわからず日本の方とも馴染めなかったんですが、丸長グループの家族のように優しい方々に囲まれ、日本への印象も変わりました。静岡が好きになり、大学も県内の大学にしようと決意。静岡産業大学の情報学部に入学し、その間は丸長グループの「マルサン」でアルバイトを継続。いずれは大学卒業後、帰国するつもりでしたが、丸長グループで働けるならと本社の「丸長鍍金」に正社員として入社しました。
2011年には海外業務を任され、世界一とも言える顧客の担当を任され、日々が勉強に。とてもやりがいがある毎日でした。本社も社長の人柄もあってか雰囲気がとても良く、外国人、障がい者、高齢者など、さまざまな人材が協力し合いながら働いており、私自身も外国人であることを忘れてしまうほど。現場作業者でもいつでも社長と話ができる風通しの良い職場です。
2012年には「丸長鍍金」で出会った方と国際結婚。2013年には第一子を授かり、マイホームも購入しました。ここまでくると日本に住んでいる期間の方がスリランカよりも長くなり、人生の半分以上は日本に。苦楽をともにしてきた日本の方が自分の国という気持ちが強くなり、2024年に帰化することにしました。これからも「丸長鍍金」の皆さんと頑張っていきたいと思います。

取組企業からの声

総務部部長/代表取締役社長/総務部課長

古本 修一さん/瀧井 貞夫さん/髙橋 美幸さん

一人ひとりの事情を理解した上で、働ける場を用意することが大切

子育て中の女性に管理職を提案すると、本人からの希望で「自分にできるか不安」と最初は辞退されることも。でも、当社では子育て中の女性にも個々の環境を理解した上で「それでも活躍してほしい」とアプローチ。「それなら頑張ります」と言ってくれる従業員がほとんどです。
学生アルバイト、外国人、障がい者、高齢者と当社にはさまざまな方が働いています。最初は人手不足により始めたことですが、それぞれに良い部分があり、それが相乗効果になり、生産性アップへのつながっていると思います。
今後も多様な方々が働きやすい環境を用意し、さまざまな交流を通して仕事もフォローし合っていければと考えています。

取材メモ(編集後記)

多様な従業員が多いことが「丸長鍍金」のひとつの特徴とも言えるでしょう。特に外国人からの評価も高く、日本語学校通学時代からアルバイトとして入り、「働きやすいよ」と日本語学校、および従業員からの紹介で採用につながっています。外国人がいるということがすでに社内風土として根付いているため、分け隔てなく従業員同士での交流ができており、日本人と同様にキャリアアップしていっています。
また、従業員同士を愛称で呼び合い、笑顔あふれる方が多かったのが印象的でした。「この会社でずっと働きたい」。そう思う方が多いのも納得できる雰囲気の会社でした。

(文責:河田良子)

丸長鍍金株式会社

所在地
静岡市清水区西大曲町12-3
電話番号
054-366-3361
業種
製造業
従業員数
168名 

男性104名、女性64名
(正社員/男性80名、女性38名、パート/男性5名、女性10名、技能実習生/男性18名、女性13名、特定技能/男性1名、女性3名、社内外注/男性2名、女性2名、管理職/男性13名、女性2名)
※2024年9月30日時点

※人数は取材時のものです

設立年月日
1950年4月1日
ウェブサイト
https://www.marcho-g.co.jp/
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