取組内容について

「株式会社𠮷田鍍金工業所(以下、𠮷田鍍金工業所)」は、鉄鋼や銅をはじめ、ステンレス、真鍮、アルミ、鉛、コバールなど、さまざまな材質にめっきを施す技術を持つ製造工場。創業112年を迎え、現在では8種類のめっきのラインナップを持つ企業です。
以前はそれぞれの従業員が各ラインを専任で担当し、ライン間の情報共有や協働はありませんでした。2020年に三光HDグループになり、山岸洋一さんが社長に就任。これを機に、働き方の多様化が推進されました。スキルマップを作り個人の技術の習得度を共有できる状態にすることで業務分担も容易になり、休暇が取りやすくなりました。チャットツールの導入により社員間のコミュニケーションも活性化し、社内全体がひとつのチームとしてお互いをフォローしながら働けるようになりました。
また、クラウドシステムの活用を始め、各ラインの業務量や進捗を可視化、工程記録もタブレットからリアルタイムで共有されるようになり、かつてはパソコンが2台しかなかった社内の業務効率をITで向上させることができました。就業規則の変更も行われ、1時間ごとの有給取得が可能、75歳まで雇用延長など育児中の従業員や高齢者も働きやすい環境になりました。
そんな「𠮷田鍍金工業所」の取り組みを詳しくご紹介していきます。

【ルール・環境の整備】社内のコミュニケーションの充実とデジタル化で生産性向上を目指す

2020年に三光HDグループになった「𠮷田鍍金工業所」。生産性を高め顧客提供価値の拡大を図る本社の方針のもと、事業所に適した生産管理フローの構築・システム選択と活用に取り組んできました。2020年ではパソコンが社内に2台しかなかった状態でしたが、山岸社長の就任に伴い、社内のコミュニケーションや生産管理などのデジタル化を推進。情報の同期共有により、お互いに休みやすい環境を整えました。

【ルール・環境の整備】社内のコミュニケーションの充実とデジタル化で生産性向上を目指す

  • ①社内のIT化促進のため、まずはLINEグループを作成……社内のコミュニケーションを活性化させIT化を進めるため、全従業員にスマホを所持してもらい、LINEグループを作成。仕事に関する話題は避け、土日の過ごし方や釣り大会の企画など、プライベートな話を中心に会話が増えていきました。
  • ②業務に必要な情報共有にSlackを活用……2021年に導入されたSlackは、リアルタイムでの情報共有を可能にしました。専用の業務チャンネルを設けることで、トラブル発生時には写真や動画を迅速に共有できるようになり、営業日報もSlack上で簡単に報告可能。この結果、業務の効率的な進行が実現しました。
  • ③生産管理システムにはKintoneを利用……業務量や進捗の共有、可視化にはKintoneを導入。このシステムでは、見積もりから受注、生産、出荷までの工程を一元管理できるようになりました。各生産ラインの進捗状況や在庫をリアルタイムで確認でき、お客様からの納期問合せにもすぐに対応が可能。過去の生産記録も検索しやすくなり、必要な情報にすぐアクセスできるようになりました。
  • ④IT化促進により男性事務責任者が育休を取得……2022年には男性事務責任者が第二子出産に伴い、1か月の育児休暇を取得。経理や総務、生産管理を担当する事務所のキーパーソンでしたが、Slackを活用して業務の進捗を把握できるようにし、不在でも業務が円滑に回る体制が整えられました。
  • ⑤1時間からの有給取得が可能……業務分担できるようになり活用できるようになった制度。通院や子どもの保育園・学校行事への参加などに活用されています。
  • ⑥75歳まで継続勤務が可能……60歳を定年とし、本人の希望で1年ごとの更新で再雇用が可能です。働き方は個別に対応し、フルタイム勤務から週4勤務など、経験を活かしつつ、自身に合った働き方を継続しています。
  • ⑦短時間正社員として勤務可能……短時間正社員制度を15年以上前から導入しています。この制度により、家族の介護や子どもの不登校などの家庭の事情により、一時的に短時間勤務を利用することで仕事を辞めずに働き続けられる環境を提供。条件面も個別に調整し、社員一人ひとりが無理なく家庭と仕事を両立できるようサポートしています。
【キャリアアップ体制】意欲に応える研修制度とスキルマップによる多能工化の推進

【キャリアアップ体制】意欲に応える研修制度とスキルマップによる多能工化の推進

キャリアアップ支援が充実しており「学んでおくと役に立ちそう」「困っているから学びたい」といった従業員の意欲に応じて、外部研修に参加できるよう積極的に案内しています。また、多能工化を重視し、スキルマップで必要なスキルを可視化。これにより、従業員のスキルが明確になり、相互フォローが可能になっています。

  • ①外部研修の受講……会社負担で外部研修の受講を推進しており、2023年度は10名の従業員が計32回の研修に参加しています。めっき技術以外にもチームマネジメントやプレゼンスキルなど、各自が必要と感じる分野を自由に学び、レポートを社内で共有。学んだことを社内でも展開しています。
  • ②多能工化を支える人事考課制度……多能工化を人事考課の指標とし、スキルマップをもとに、従業員が必要なスキルを習得できるようサポートしています。このスキルマップでは、自分の業務に必要なタスクを可視化し、誰がどのスキルを持っているかを明確にしています。例えば「台車を汚したらすぐに清掃できる」「不良がでたら記録に残すことができる」といった初歩的なスキルから、「電子顕微鏡での撮影・記録ができる」「クロムめっきの剥離ができる」といった高度なスキルまで細かく設定。300以上の項目に及び、半年ごとに改訂されています。このことにより、一人ひとりのできることが可視化され、不在時や配置移動の際のフォローがしやすくなっています。

【社内推進体制】新人研修と経営指針の共有で組織の一体感を図る

新人研修では「QAマラソン」を実施し、従業員に多くの質問を行うことでコミュニケーションの構築に役立てています。また、「経営の栞」を全従業員に配布し、経営方針や行動指針を共有。業務の判断基準を明確にし、優先事項を決めやすくしています。

【社内推進体制】新人研修と経営指針の共有で組織の一体感を図る

  • ①新人研修としてQAマラソンを実施……新人研修では「QAマラソン」を実施。入社から3カ月以内に一人ひとりの従業員に対して合計200問以上の質問を行います。これは業務内容だけでなく、「趣味は何ですか」「子どもはいますか」などのプライベートの話もOK。リアルな対話のきっかけにすることで、心理的安全性の確保、従業員間の関係構築に役立てています。
  • ②社内独自の「経営の栞」で経営方針を共有……全従業員に「経営の栞」を配布し、経営方針や行動指針を共有。このツールは、業務での判断や優先事項を明確にするために役立ちます。社内で大切にしている考え方だけでなく、社会人として、ものづくりに関わる者として成長に活かせる理論やフレームワークなどもまとめられています。毎年改訂し、さらに従業員自身が個々に書き込むことで、実践的な内容に進化。全員が目指す方向性や目標を理解し、迷わず行動できる環境を整えています。
【多様な人材の活躍推進体制】多様性を生かした女性の積極採用

【多様な人材の活躍推進体制】多様性を生かした女性の積極採用

2020年以前は女性従業員が皆無でしたが、多様な視点を取り入れることで新たなアイデアが生まれ、より良い成果を上げることができると考え、女性の積極採用をはじめました。

  • ①女性の営業職の採用……男性のイメージが強い製造業の営業職に、第1号として女性が参入。昔ながらの町工場のイメージを変え、女性営業のカルチャーを根付かせることができればと考えています。
  • ②製造現場にも女性が参入……女性がめっき作業に関わりやすいよう作業工程を細分化しスキルマップ項目に反映。重労働となる手動ラインの作業は、リフトを設置するなど設備改善が進んでおり、負担軽減に向けた取り組みが行われています。

今後の課題・予定

三光HDグループは、浜松やベトナムなどに拠点があるので、交流を深めることで問題点や気づきなどのシェアができればと考えているそうです。外国人採用においては、日本人と同じ基準で評価し、国籍にもニュートラルな形での採用を検討しています。
一方で、コミュニケーションの量と質はまだまだ不十分な部分があり、意義や目的を再確認し、チーム全員が同じ目標に向かって進改善していければとのことです。

取組によって得られた声

業務部

吉田 卓馬さん

2014年入社

業務改善があったから育児休暇が取得できた

2022年の夏に第2子を出産した妻をサポートするため、1か月間の育児休暇を取得しました。上の子は当時2歳で、世話が大変な時期でしたので、妻に寄り添いたいと思い、取得を決意しました。赤ちゃんのミルクやおむつ替え、寝かしつけなどの育児に加え、掃除や洗い物などの家事も妻と分担しました。業務部のメンバーの温かい協力に助けられ、引き継ぎもスムーズに行えました。社内体制が新しくなったおかげで、以前の体制では到底休めなかったと思います。デジタルツールの活用により、感染症で休んでいた時もリモートで対応できる体制が整っていて、とても助かっています。

製造部

天野 美里さん

2021年入社

子育てをしながら成長できる職場環境

以前は飲食店などで働いていましたが、子どもが産まれ、サービス業ではなかなか生活のリズムが合わず、定時が決まっている会社への転職を検討しました。製造業は初めてのチャレンジ。定時が7:55〜16:35で、残業もほとんどないのでとても助かっています。子どもの行事や夏休みなどで定時での勤務が難しいときは、1時間単位で有給を使えるので安心です。周囲も理解があり、個々の事情を柔軟に受け入れてくれます。ほかにも釣りやキャンプに行くために有給を使う方もいますよ。入社してからの研修では、すべての製造ラインを1か月で回り、スキルマップを使って研修をしていくので、業務のフォローがしやすいですね。

取組企業からの声

代表取締役社長 CEO

山岸 洋一さん

ITの活用で生産性が向上し、働きやすさもアップ

2020年に代表に就任して以来、会社の働き方を根本的に見直す取り組みを進めてきました。その一環として、就業規則の変更を行い、三光HDグループで実践されている業務のやり方を当社に持ち込み、斬新な仕組みを導入しました。特に、ITを活用したさまざまなシステムの導入は、大きな変革をもたらしました。今後も、従業員が心から働きやすい職場環境の実現と、生産性の向上に向けて取り組みを続けてまいります。

取材メモ(編集後記)

2020年の時点でパソコンが2台しかなく、スマートフォンを持っていない社員も多かったそうです。それほどアナログだったにも関わらず、導入してみると、スマートフォンを手にしたばかりの方も抵抗なく、社内のIT化に柔軟に対応できたそうです。
特に業務を細分化して記述したスキルマップは見事でした。誰がどの作業をどの程度できるかがわかるため、不在時のフォローを誰ならできるかがわかりやすくなっています。また、このスキルマップにより、自分自身の目標も立てやすくなっています。それぞれの項目は「①やったことがある」「②誰かと一緒ならできる」「③ひとりでできる」「④教えられる」で記載され、一度やったことがあれば①の評価がつく仕組み。非常にわかりやすくなっていました。

(文責:河田良子)

株式会社𠮷田鍍金工業所

所在地
静岡市駿河区国吉田 1-3-24
電話番号
054-261-8869
業種
製造業
従業員数
17名 

男性11名、女性6名
(正社員/男性9名、女性3名、パート/女性3名、嘱託/男性2名、管理職/男性4名、女性1名)
※2024年10月4日時点

※人数は取材時のものです

設立年月日
1952年3月1日(創業1912年2月)
ウェブサイト
https://yoshida-pltg.jp
MAP

他の事例も見る