取組内容について

山崎製作所は、精密板金加工を行う決して大きくはない町工場です。かつては黙々と職人が作業するような、いわゆる多くの人が想像するような工場(こうば)のイメージがある会社でした。リーマン・ショックに影響され、経営が苦しくなっていた時、会社経営に乗り出したのが、当時、経理を担当していた山崎かおりさん(現社長)でした。
「赤字を抱えた会社をどうにかしなければならない。改革が必要」。そう思った時にまず着手したのがコミュニケーションの形成だったと言います。
従来の制度を転換し、改革を行ったことで、今では山崎製作所は、さまざまなメディアに取り上げられる自社製品を生み出し、全国だけでなく、世界から受注を受ける企業となっています。

女性の雇用により生まれた自社商品開発プロジェクト

「製造業は、どうしても景気の影響を受けやすい。他社に依存するのではなく、自社商品の開発をせねば!」と、2015年に女性を中心に企画したオリジナルブランド「三代目板金屋」を立ち上げ、インテリアやかんざしなどのアクセサリー等といったプロダクトを販売するようになりました。
「三代目板金屋」の売上は、全体の売上の8%ではありますが、波及効果が大きいそうで、今では全国や世界から受注を受けるようになっています。オリンピック関連のデザインインテリアの受注や、医療器具の生産など、今まで経験したことがないような新しい仕事が入るようになりました。
「男性がやっていた仕事を、女性ができるようにするのではなく、女性は女性の力を生かせる仕事を生み出すのが大切。製造業でも、女性だからこそ活躍できる場を作ることはできると思います」と、山崎社長は語ります。

女性の雇用により生まれた自社商品開発プロジェクト
就業規則はいつでも閲覧可能な場所に。要望があればすぐに改善

就業規則はいつでも閲覧可能な場所に。要望があればすぐに改善

就業規則は、2013年に見直しを行っています。実は、それまでは全くと言っていいほど変更がなかったとのこと。今では社員がいつでも閲覧可能な場所に置かれ、また、要望や状況に伴い、随時変更を行っています。
数年前にあった例としては、社員から要望があり、1時間単位での有給取得が可能になりました。通院、通院補助、急病といったものから、通勤途中の渋滞、寝坊、私用といった場合にも事後対応可能に。急な休暇取得は「LINE」で可能としました。
他にも、有給取得がしやすい環境づくりとして、朝礼で地域の自治会やボランティア参加を奨励することを呼びかけています。平日に活動が多い子ども会などの地域活動や学校のPTA役員になる社員もいます。
2019年からは、休暇をなかなか取らない社員に対し、会社指定休暇を実施。日程は、本人と相談の上、決定しています。

キャリアアップ体制を整え、誰もが働きやすい環境へ

2019年より、意識面・技能面をもとに個々のスキルマップを作成し、それをもとに社長と上長と本人とで面談を実施し、課題を確認しています。
国家資格「板金技能士」取得、JIS溶接資格取得に関するセミナー(全4回土曜開催)と試験費用は、全額会社が費用を負担。土曜に開催されるセミナーは、休日出勤扱いとしています。資格取得後は、毎月の給与に資格手当を付与。(例:特級4万円、1級1万円、2級5000円)また、2016年からは合格報奨金制度を設けました。これにより、2017年には6名が合格、2018年には3名が合格。2019年も5名が受験予定とのこと。現在、社内には12名の合格者を出しています。毎月の給与に反映されるとあって、資格取得を目指す社員が増えたと言います。
また、重い機械や工具を使った製品の製造は、体に大きな負担がかかるので、現在、毎月1回、全6回で腰痛教室を実施中とのこと。毎日の朝礼時にも、腰痛対策のストレッチを行っています。工場の職人は、重い金属が足に落ちても怪我を負わないよう、片足500gの安全靴を履いています。安全のためとはいえ、足への負担は大きいため、会社負担で靴のインソールを導入。社員の健康にも気を配っています。

キャリアアップ体制を整え、誰もが働きやすい環境へ
今後の計画について

今後の計画について

「小さな会社だからこそ、画一的ではなく、一人ひとりと丁寧に寄り添うことが大切だと考えています。多様な人々が、横に手を繋げるよう、暖かい雰囲気づくりをこれからも推進していきます」。
今後の計画としては、現在、新工場を建設計画中で、より環境のよい工場で働けるようになる予定とのこと。企業内保育所、子連れ出勤対応、高齢ドライバーの補助具購入の会社負担を検討中とのことでした。

取組によって得られた声

「三代目板金屋」チーム

専用の事務所と女性でも扱いやすい機械を使って作業しています

男性社会である金属加工の世界において、女性の感性と視点でものづくりと行うことで、男性熟練職人の技術と品質が広く知られるようになりました。女性チームで構成される「三代目板金屋」は、落ち着いてデザイン等の業務に取り組めるよう、専用の事務所が用意されており、また、安全性、機能性、サイズ等も含め、女性でも使いやすい3つの機械を新たに導入してもらいました。女性5名がそれぞれ「デザイナー&経理」「デザイナー&営業」「営業&お客様担当」「お客様担当&事務」など、さまざまな仕事を兼務し、一つひとつにやりがいを感じています。

取組企業からの声

代表取締役社長

山崎かおりさん

コミュニケーションを円滑にし、女性の活躍の場を広げたことで業績も向上

昔は、社員間の会話がなく、シーンとした会社でしたが、今ではとても賑やかな会社になりました。コミュニケーションが円滑に取れる会社は、お互いに相談がしやすく、新しいモノが生まれやすい雰囲気があります。
昔ながらの町工場で使用している機械や工具は、男性仕様のものが多く、重たいものがほとんど。そして、生み出す商品も男性的です。女性が入ることで、女性ならではの製品が生まれます。「三代目板金屋」の製品は、当初の試作品は、手触りが悪かったんです。「肌に触れるものだから、手触りは大事にしたい!」。こういった視点は、女性ならではですよね。
女性の力は本当に大きく、会社全体に大きく作用しています。おかげさまで、かつては赤字だった業績も、右肩上がり。基本は人。一人ひとりの働き方をよくヒアリングしながら、会社の制度も柔軟に変更していきたいですね。

取材メモ(編集後記)

「みんなの会社だ」ということを考えてもらうために、社員全員で経営理念を作成。一人ひとりが管理職のつもりで工夫し、進んでいく組織を目指しています。また、毎朝の朝礼では、円陣を組んで、肩もみを行い、コミュニケーションが取れる時間になっています。
特に求人はしていないとのことですが、若い世代からの就職希望者が後を絶たたないと言います。社員25名中、7名が20代と、町工場においては珍しく若い世代が多い会社です。今後どんな職場になり、若い世代や女性のアイデアと熟練職人による技術がどんな形で商品になっていくのか、消費者としても楽しみな企業です。

(文責:河田良子)

株式会社山崎製作所

所在地
静岡市清水区長崎241番地
電話番号
054-345-2186
業種
製造業
従業員数
25名 

男性正社員19名・男性非常勤1名
女性正社員5名

※人数は取材時のものです

設立年月日
昭和45年9月11日
ウェブサイト
https://www.yamazaki-metal.co.jp
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